草木の成仏

動物の往生について、経文と前門主の言葉を引用しながら紹介しました。


親鸞聖人にはどのような言葉があるのでしょうか。


『唯信鈔文意(ゆいしんしょうもんい)』という書物に次のようにあります。

この如来、微塵世界(みじんせかい)にみちみちたまへり、すなはち一切群生海(いっさいぐんじょうかい)の心なり。
[現代語訳]この如来は、数限りない世界のすみずみにまで満ちわたっておられる。すなわちすべての命あるものの心なのである。


現代語訳は、西本願寺から出版されている現代語版から抜粋しています。この部分について、次のような解説があります。

関連する部分を含めて原文を抜き出すと、

仏性すなはち如来なり。この如来、微塵世界にみちみちたまへり、すなはち一切群生海の心なり。この心に誓願を信楽するがゆゑに、この信心すなはち仏性なり、仏性すなはち法性なり、法性すなはち法身なり。

であるが、このなか「すなはち一切群生海の心なり」について、本現代語訳においては、直前に「この如来、微塵世界にみちみちたまへり」とあることから、「如来」が「一切群生海の心」そのものにあたると解釈し、本来、煩悩のためにさとりを開くことができない衆生のうちに、「如来」が遍満していることを示されたものと見て、「すなわちすべての命あるものの心なのである」と訳しておいた。


この『唯信鈔文意』は浄土真宗の高田派という宗派に伝わっている「真筆本」が現存します。親鸞聖人が実際に書かれたものです。
他にも「正嘉本」と呼ばれる書写本があります。同じく高田派に伝わっており、正嘉元歳(1257)の奥書があることからこう呼ばれます。
「正嘉本」で先に確認した「真筆本」の該当部分を見てみると次のようにあります。

この如来、微塵世界にみちみちたまへり、すなはち一切群生海の心にみちたまへるなり。草木国土ことごとく、みな成仏すととけり

草や木、国土といったいのちにも入り満ちて成仏させる……これは『涅槃経』で説かれる「草木国土悉皆成仏(そうもくこくどしっかいじょうぶつ)」を受けた言葉です。
浄土真宗に限らず鎌倉時代の新仏教はすべてこの考えに依って立つと梅原猛先生はいいます。

親鸞聖人の言葉からも、「人間も動物も草も木も仏さまの慈悲が届いている」と受け止められることが分かりました。

なお、私たちにとって大事なことは、まず私自身が確かにお浄土へ生まれるかどうか、私のいのちのゆくえを教えに聞いていくことです。〈『世の中安穏なれ 現代社会と仏教』〉

合掌

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2018年01月31日